ビジネスと生物多様性
2009.04.22
石油や鉱物などの資源開発は、生物多様性にきわめて大きな影響を与える が、新たな取り組みも始まっている。 Photo:©CI/ Russell A.Mittermeier
林業や水産業はともかく、一般の企業は生物多様性とは無関係、そう思っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。しかし、実際にはすべての企業が、程度の差こそあれ、生物多様性と関係があるのです。
私たちが生物多様性に配慮し、保全する必要がある最大の理由は、生物多様性や生態系の機能が、私たちの日々の暮らしに不可欠だからです。こうした機能をまとめて生態系サービスと呼んでいますが、実はあらゆる企業活動も生態系サービスに強く依存しています。
最初に挙げた林業や水産業では、木材や水産物など、事業で必要な資源を生態系から得ています。生態系のこうした機能は、供給サービスと呼ばれています。また生産活動にも私たちの生活にもきれいな水は欠かせませんが、雨水をろ過し、洪水が起こらないようにし、いつもきれいな水が得られるのは、森林生態系などが調整サービスの機能を発揮しているからです。
生物多様性の問題に最初に本格的に取り組んだのは、石油や鉱物などの資源開発を行う企業でした。こうした企業は事業の特性上、採掘する際に山を切り崩したり、海底を掘鑿するなど、土地を著しく改変し、生態系や生物多様性にきわめて大きな影響を与えてしまうからです。
生物そのものを捕獲することはなくても、生物の住み処を破壊することで、その地域の生物多様性を破壊してしまうのです。そのことを環境NGOなどから指摘され、欧米を中心に大手の石油会社、鉱山会社は、生物多様性を保全する取り組みを開始しました。
紙幅の関係で詳細についてはご紹介しませんが、今では多くの油田や鉱山開発において、地域の生物多様性に対して最大限の配慮を行い、影響を最小化する努力が払われています。もちろんそれでもある程度の影響が残ることは避けられませんので、今度はその近くで新たに保護地域を設けたり、生態系を再生するなどして、そうした行為と合わせてプラスマイナスをゼロにする、あるいは正味でプラスの影響にすることを目標にしている鉱山会社も出てきました。
林業や水産業でも、生物多様性への影響を最小にし、生物資源を持続可能な形で利用する方法が開発されています。そのような方法で調達された材料を使っていることが消費者にも伝わるように、最近では認証制度やそのことを示すマークも作られています。
企業による生物多様性の保全、特に本業での保全は、ようやく緒に就いたばかりです。しかし、事業活動が生物多様性に与える影響を最小限にとどめ、生物資源を持続可能な形で利用しようとする企業や産業は確実に増え始めています。自分たちの事業が直接生物多様性を破壊していなくても、原材料を供給する供給業者や、自分たちのお金の投融資先の事業まで含めて配慮をする企業も増えています。このような企業を応援する市民の声や行動(これらの企業の商品を選ぶことも有力な行動です)が増えることが、こうした責任ある企業をさらに増やすことになるでしょう。
Written by 足立直樹(株式会社レスポンスアビリティ代表)
東京大学理学部、同大学院で生態学を学び、理学博士号取得。国立環境研究所およびマレーシア森林研究所で熱帯雨林の研究に従事する。その後コンサルタントとして独立し、現在は株式会社レスポンスアビリティ代表取締役、および企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)事務局長 。専門分野は「企業による生物多様性の保全」、「CSR調達」など。環境経営学会 理事、環境省 生物多様性広報・参画推進委員会委員など多くの委員も務める。