外来種
2009.05.18
甲虫の幼虫を襲う南米原産のヒアリ。北米やオセアニア、中国南部に分布拡大している。強い刺傷毒性(おしりの針で刺す毒)を持っており、アメリカでは年間8万人がこのアリに刺される被害を受けており、そのうち100人近くがアレルギー症状により死亡している。Photo:©Koichi Goka/National Institute for Environmental Studies
現在、世界中にはびこる外来種の種数は計り知れないが、日本だけでもこれまでに2,000種以上の生物が外来種として記録されている。これら外来種のほとんどは明治の開国以降に移入されたものであり、人とモノの動きが活発になったことにより、外来種が飛躍的に増加したことがわかる。その中には、オオクチバス(ブラックバス)やマングース、アライグマなど、在来生物に対して甚大な被害をもたらすものも多数含まれ、2005年に環境省は「外来生物法」を施行し、これら影響の大きな外来種を特定外来生物に指定して、国内の持ち込みや飼育、野外へ逃がす行為に対して規制を設けるに至っている。
この「外来生物法」の制定を前後して、マスコミでも外来種に関する話題が大きく取り上げられ、近年のエコブームと連動して、外来種の定義や存在は国内でもかなり高い割合で認知されてきている。しかし、外来種の種数も個体数も決して減ることはなく、今も増え続けている。それは丁度、「地球温暖化」という言葉がもてはやされ、特集番組も多数報道されながら、CO2排出量が一向に減る気配がない、という現象と似通っている。なぜ、外来種は生み出され、増え続けるのか? その背景には、人間の経済活動が深く関わっている。
例えば、極めて刺傷毒性の高い南米原産のヒアリは、21世紀に入ってから急速に環太平洋諸国に分布を拡大しているが、その背景には経済発展が著しいこの地域の国間での人とモノの動きが活発化していること、特に、中国や東南アジアなどが資源産出国から資源消費国へと転じ、一方で中南米諸国が資源輸出拠点へと転じることにより、ヒアリが付着した木材や農産物の移送ルートが拡大したこと、そして、撹乱環境の拡大により、侵入定着の機会が高まっていることが挙げられる。アジアではすでに中国南部にまで本種は分布を拡大しており、日本に侵入してくるのは時間の問題とされる。
日本は資源輸入大国故、外来アリ類のような、非意図的な外来種の侵入機会は非常に高いと考えるべきである。南米原産のアルゼンチンアリやオーストラリア原産のセアカゴケグモなど、ここ数年で急速に侵入地域が増加している。
ペットとして大量に輸入された外国産のクワガタムシは、餌や住処をめぐる競合で在来のクワガタを打ち負かしたり、あるいは交尾をして雑種を生み出す恐れがある。雑種化が進行すると、日本固有の遺伝子集団がかく乱される恐れがある。 Photo:©Koichi Goka/National Institute for Environmental Studies
一方で、日本人の特異的性質として、外国産の生物をペットや観賞用として好んで家庭に持ち込みたがるという現象がある。その端的な事例としては、外国産クワガタムシの飼育ブームがある。1999年の輸入解禁以降、外国産個体の輸入数はうなぎ上りで、世界で記載されているクワガタムシ約1,500種のうち700種以上が輸入可能であり、1年間の輸入個体数も100万匹レベルで推移している。
世界中を見渡しても、これほどまでにクワガタムシを愛する国民はいない。クワガタムシだけではなく、魚類、両生類、爬虫類等、様々な分類群の外来種がペットとして輸入されている。多くの日本人がこれらのペットを死ぬまで面倒をみてくれればいいが、飼いきれなくなり、殺すこともできずに野外に逃がされたものが、侵略的外来種と化すケースがあとをたたない。
もともと、そうした外来種の輸入自体すべて規制すれば済むではないかという意見もあるであろう。実際にオーストラリアやニュージーランド等は生物の持ち込み・持ち出しに対して極めて厳しい規制をかけており、原則、外来種の持ち込みは禁止されている。政府が安全性を認可した種だけ輸入が可能となる。こうした検疫システムをホワイトリスト方式と呼ぶ。一方、日本のように危険と判定された種のみを輸入規制する方式をブラックリスト方式と呼ぶ。
この方式では、リスク評価がされていない種はリストに載っていないので、輸入は原則自由となってしまう。ならば、オセアニアの方式を見習うべきだという意見もあるが、日本の経済構造ではそう簡単にホワイトリストを真似することは出来ない。なぜなら日本はオセアニア諸国とは真逆に、食糧自給率が極めて低く、食糧資源の多くを外国からの輸入に依存しているからである。この状況で、ホワイトリスト方式をとれば、とたんに食糧供給と経済が停滞してしまうことになる。
そうした日本の苦しい立場を象徴する事例として農業害虫の規制緩和がある。日本ではこれまで、輸入農産物に付着する病害虫は植物防疫法に基づく検疫を受けることとなっており、規制対象種が発見された場合は、輸入停止の措置がとられているが、現在、この検疫対象種リストから次々と重要農業病害虫が外されている。
農産物の輸入自由化を推し進めるために、非関税障壁となる検疫のハードルが、国際的圧力によって引き下げられているのである。例えば、2005年度には42種もの病害虫が検疫対象から外されているが、その中には世界的な重要害虫であるナミハダニも含まれていた。
検疫リストからの除外理由は、本種が日本国内にも生息していることから、海外から持ち込まれる個体について検疫する必要はない、というWTOの見解に基づいている。しかし、世界各地のナミハダニ個体群はDNA分析からも地理的に分化が進んでおり、明らかに異なる系統群を構成していると考えられ、さらに各系統の薬剤感受性(農薬の効き方)にも大きな差異が存在することが明らかとなっている。形態上は同一種でも、別々の地域で進化してきた遺伝的分化集団は生物多様性を構成する重要なユニットとして管理する必要がある、という生物多様性保全の概念は、害虫管理においても防除上重要な意味を持つ。しかし、グローバリゼーションという言葉の前には、生物多様性や地域固有性という概念は通用しない。
外来種の脅威から自然生態を守ることを目的としている我々研究者自身も、外来種蔓延の大きなリスクを背負っている。例えば、世界中で両生類が急激に減少している原因の一つとされる病原体カエルツボカビ菌は、遺伝子分析の結果、日本を含むアジアが起源ではないかと疑われている。そして本菌は特に中南米やオセアニアの高地のジャングルで著しい被害をもたらしているが、そうした人畜未踏の地に、なぜ、アジア原産の病原体が侵入したのか?ひょっとすると病原体を運んでいるのは、世界中の森林を調査して飛び回っている生物学者自身かも知れない。。。
今、人間にとって、世界は狭く、地球は小さくなりつつある。世界中のネットワーク化により、生態系や生物相(動物や植物の種類)だけでなく、社会、経済、文化までもが「外国産」の影響を受け始め、国や地域の独自性・固有性が急速に喪失し始めている。多様性や固有性はシステムの柔軟性を維持する上で極めて重要な要素となる。多様性や固有性を失ったシステムが簡単に崩壊することは、現在の世界経済の状況をみても容易に理解出来るのではないだろうか?
侵略的外来種は、世界の多様性と固有性の喪失を象徴する生物種なのである。
Written by 五箇公一 (国立環境研究所)
国立環境研究所 環境リスク研究センター 侵入生物研究チーム・リーダー
1965年富山県生まれ。民間会社勤務(殺虫剤開発)を経て、現職へ。京都大学農学博士。専門は生態学、ダニ学。人間活動が環境、特に生物多様性に及ぼす影響を研究している。趣味はコンピュータグラフィック。E-mail: goka@nies.go.jp