コンサベーショニスト

釣りキチ少年から海洋生物学者へ-佐藤克文さん

2010.03.08

佐藤克文さん

photo : © Katsu Sato

ペンギン、アザラシ、ウミガメ、ワニ・・・東京大学准教授・佐藤克文さんが研究対象としてきた動物は多種多様。陸上の動物に比べてほとんど研究が進んでいない水中の動物たちの生態を解明すべく、日本が誇るハイテク機器「データロガー」を武器に、世界各地のフィールドで研究をされています。詳しい研究成果は先生の著書や論文にお譲りして、インタビューでは研究と社会のかかわりや、研究者の道に進むきっかけを中心にお話を伺いました。

まず、先生の研究内容・手法について簡単にご紹介いただけますか?

バイオロギングという手法で研究をしています。観察が難しい動物の行動や生理を調べるために、小さな機械を動物に取り付け、観察できない間の行動記録を取るというものです。扱っている動物は多種多様ですが、特につきあいが長く、思い入れがあるのはウミガメとペンギンですね。

研究を続けている中で大変なことは何ですか?

いちばん苦労するのは研究の意義を一般の人々に伝えることです。たとえば野生動物の保護を目的に活動している人々に対して、「バイオロギングは保護に役立ちます!」と言い切れない。まだ役立った例もないですし、どう役立つかと聞かれて具体的に答えられるものではないので。税金を使ってこういう研究をして何の役に立つのか、というもっと厳しい質問にも、研究の成果が直接人々の生活に貢献するようなストーリーを描くのは難しいです。調査そのものがうまくいくかいかないかよりも、そうした社会貢献の面での研究の意義について、悩みが尽きません。動物に関心がある人なら、こういう生態が新しくわかりましたというだけで面白いと思ってもらえますが、世の中の人の大部分はそこまで動物好きではないですから。

データロガーを取り付けたインドガリアルを手にする佐藤先生

データロガーを取り付けたインドガリアルを手にする佐藤先生 photo : © Katsu Sato

最近では、環境保護団体との共同研究もされているとのことですが。

WWFインディアから、インド国内の絶滅危惧動物の生態調査にバイオロギングを活用したいという協力依頼があったんです。ガンジス川にインドガリアル(ガビアル)という、細長い口をしたワニの一種がいて、宗教的にもシンボリックな種なのですが、個体数が野生で200頭ほどにまで激減しているんです。そこで飼育下で繁殖させて、ある程度成長した個体を野生復帰させるプログラムが行なわれているのですが、彼らはそうして野生に戻った個体がちゃんと環境に適応していけるかが知りたい。私たちとしては装置が進歩していろいろな動物に装着できるようになってきたので、対象種が広がるのは大歓迎ですから、喜んでということでインドに行ってきました。ガリアルが何分間潜っているか、何メートル潜れるかといった潜水行動や、尾の動きなど生理学・生態学的にはとても面白いデータが取れました。でも、インド政府に提出する報告書ではそれがどう保護に役立つかを求められるので、また困っているところです。基本的な生態がわからなければ有効な保全戦略を立てられない、という大前提は共有しているのですが、もっと具体的なものを求められるので。政府としては、その大前提の下で大切な保護動物を捕獲してデータロガーをつける許可を出していますから。

苦労されているとのことですが、保全戦略に還元できそうな成果というと、どのようなものがありますか?

たとえば個体数のカウント。保全のためには個体数の推移を調べる必要がありますが、ガンジス川は濁っていますから、目視では陸地で日光浴している個体しか数えられません。でも、陸地に10頭見えたから「この川の生息数は10頭です」なんて嘘ですよね。水中にもたくさんいるはずで、つまり全個体の何割が陸地にいるかがわからないと個体数はわからないわけです。そこでデータロガーを使えば1日の何割を水中で過ごすかがわかりますから、例えば1日の90%が水中だとすれば、個体数は陸地にいる数の10倍というように、目視だけの場合より正確に見積もることができます。ただ、フィールドでは往々にして計画通りにデータは取れず、そのかわり予想もしなかったような発見があるもので、そうした発見にもひそかに期待しています。

これからバイオロギングの研究対象にしたい動物はありますか?

なんでもありですね。今、ニーズはいろいろなところにあります。インドでも、目的はガリアルだったのですが、WWFからはぜひトラに!というアプローチがありました。トラの保全にはインドの威信がかかっていますから。といっても、私は海洋研究所の人間ですから、すぐにやりますとはいきませんでしたが・・・。私の態度としては、最初から対象を限定する気はまったくなくて、つけられるものには何にでもつけたいと思っています。立場的に海の動物以外を対象にするには何かしら理由は必要ですが、それに縛られて本質的なものを見失いたくないんです。私は学位をとるまでウミガメを研究対象にしていて、そのときの所属は水産学科だったんですが、水産学科って、何をするところだと思います?

佐藤先生の研究者人生に大きく関わってきたアカウミガメ。IUCNレッドリストではEN(絶滅危惧ⅠB)

佐藤先生の研究者人生に大きく関わってきたアカウミガメ。IUCNレッドリストではEN(絶滅危惧ⅠB) photo : © Katsu Sato

漁業関係ですか?

そう、食べられる魚ですよね。養殖とか、乱獲を防ぐとか、持続可能な水産物の利用に貢献することが水産学の第一の使命です。そのなかで食べられないウミガメをやっていたものですから、そんなのやって何になるの、と風当たりは強かった。20年ほど前はそんな批判をのらりくらりとかわしつつ研究を続けていました。ところが今や日本水産学会にはウミガメのセッションがあるんですよ。時代が変わりましたね。漁業での混獲がウミガメを追い詰めているということで、主に欧米からの圧力が高まってきたからです。一昔前まで、食べられない動物は水産学の範疇ではなかった。でも最近は、持続可能な漁業を考える上で、海に住む食べられない生き物の保全も考慮しなければいけないというのが常識になりました。そのあとは極地研究所に就職して、そこでもウミガメの研究を続けました。もちろん南極北極にカメはいませんが、寒いところの動物を理解するには、暖かいところの動物も調べないと、なにが共通でなにが違うのかがわからない。外国に旅行すると日本のことがよくわかるのと似ていますね。そういうことを経験しているので、所属には縛られないようにしようと。海洋研究所の所属になった今も、今度は鳥の飛翔行動に興味を持って研究を始めています。今度、名称が「大気海洋研究所」に変わるので、文句も言われないでしょう(笑)。

ちなみに、フィールドに出ているのは年にどれくらいですか?

最近ちょっと少なくなったなあ・・・。普段は岩手県の臨海実験所(海洋研究所附属国際沿岸海洋研究センター)にいて、夏の間、7-9月は毎日がフィールドです。デスクワークをしていたら漁師さんから電話がかかってきて、変な魚が獲れたとか、カメが獲れたとしょっちゅう呼び出されています。外国のフィールドは数週間のものが年に2、3回です。昔は何ヶ月も南極に行っていましたが、学生を送り出す側になってきたので、フィールドで過ごす時間は減ってきました。

ペンギンのコロニーを見下ろす佐藤先生。茶色い点のように見えるのはすべてペンギンのヒナ!

ペンギンのコロニーを見下ろす佐藤先生。茶色い点のように見えるのはすべてペンギンのヒナ! photo : © Katsu Sato

動物にかかわる職業には、獣医や動物園などもありますが、先生が職業として研究者を選ばれたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

釣りキチ三平という漫画です。小学校4年生のときに釣りを始めてから読むようになって、それで釣りにどっぷりはまりました。大学で「勉強」と称して釣りをできるチャンスはないか、と思ったときに(笑)、水産学科を見つけたんです。(水産学科に)入ってみて気がついたのは、釣りの対象の生きた魚を見て調べるような研究はそんなに水産学科でやっていないということでした。当時流行っていたのはバイオテクノロジーで、目に見えないミクロの部分をやることでした。それで、思い描いていたような釣り三昧の日々ができず、しまったなと思っていたときに、たまたま水産学科のある先生がよそから頼まれた仕事で、ウミガメの背中に機械をつけるということをやっていて。その研究は、魚博士になるつもりで大学に入って、(研究対象は)魚じゃないけど、内容としては自分がやりたいことだということになって。それでウミガメの研究を始めたんです。機械をつけて放して、あとはひたすら砂浜を見回って帰ってくるのを待つ。そうしてカメ(の研究)を始めたものの、初めは失敗したんです。機械をつけても帰ってこない。悔しくて、絶対捕まえてやるって思って二年、三年とずるずるはまっちゃったんですね。カメの背中の装置を作った人は極地研究所の先生で、もともと南極のアザラシやペンギンにつける予定のものをウミガメでテストしていたという事情があったので、学位をとった後は、その流れで極地研究所に行きました。極地研でもテーマとしては、ウミガメの体温の研究をやっていました。カメの体温が、変温動物であるはずの爬虫類なのに一定だったんです。それに対して、同行したペンギンの調査では、ペンギンの体温がガンガン変わっていた。これじゃもう(ペンギンは)変温動物じゃないかってことで、カメだけじゃなくて色んな動物に手をのばすって面白いなと思った。そうやって何でもやる人になりました。

ルーツが釣りキチ三平だとは意外で、面白いですね。

全65巻、家の棚に全部あります。こういうことを公言し続けてたら、いつか作者の方と対談とかないかなぁと(笑)。(国際沿岸海洋研究センターのある)岩手県は渓流魚を釣るには最高ですよ。関東でヤマメを釣ろうと思ったら泊りがけですけど、気軽に釣りにいけますから。

釣りの他、仕事を離れて趣味にしていることはありますか。

仕事が趣味みたいなものですね。(趣味で)パチンコをやる人もいますが、僕は仕事でギャンブルしてますね。何十万円もする装置をとりつけてもう一度回収しないといけなくて、帰ってこなかったらお金はパーですから。

先生はHPで「小学生の方へ」「中学生の方へ」と対象者別にメッセージを書かれていたり、幼稚園でも講演なさったり、すごく「伝えること」を大切になさっているような印象を受けました。研究者としてこうありたいと思っていることはありますか。

自分が研究者としてこうありたい、という理想のためにやっているわけではないんです。実は大いなる野望があって、「そんな研究して何になるの」って言われちゃうじゃないですか。それに上手く答えられない自分も悪いんだけど、皆が面白いって思えば誰もそんなこと糾弾してこないはず。だから、世間の人たちの考え方が変わればいいなと思っているんです。 そこで株のトレードとかやってる大人を連れてきて動物好きにしようっても無理な話ですが、子どもならまだこっち側に来るかもしれない。子どもたちなら、今いろんな話をしておけば、動物好きになってくれて、大きくなって「そんな研究して何になるんですか」なんて言わない人になる可能性が高い。だから、幼稚園や小学校の講演を特に重要視しています。皆が研究者になるわけじゃないので、そういう研究を許容してくれる大人になってくれればいいな、と思います。

では、もし啓蒙があればそれも含めまして、このウェブサイトを通して伝えたいことやメッセージがあればお願いします。

このサイトを見ている人たちのほとんどは、自然や動物に興味があって、守りたいと思っている人ですよね。そういう皆さんこそ、専門家の意見をしっかり聞いてほしいと思います。温暖化によってペンギンが減っているとか、ウミガメがビニールを誤飲して死ぬとか、世間にいろんな話がありますよね。動物好き、自然好きな人ほど、そういう話を盲目的に信じてしまう傾向があると思うんです。でも、例えばカメでいうと、ビニール食って死ぬカメは僕が今まで調べてきた中でほとんどいない。カメが減る原因は別にあって、ビニールじゃないんです。ペンギンにしても、南極に関しては減っている場所も増えている場所もあるけれど、トータルではやや増えている。好きな人であれば尚更、マスメディアやネットの情報を鵜呑みにしないで、ちゃんと専門家が専門の分野で何を言っているかをワンランク上のレベルで勉強してほしいな、と思います。

編集後記:
研究対象はなんでもあり、とおっしゃる佐藤先生の飽くなき好奇心と探求心のルーツが釣りキチ三平にあったとは驚きでした。どんな生きものもじっくり観察してよく知れば驚きと感動をもたらしてくれると気づくには、やはりフィールドに出るのが一番なのでしょう。ご多忙な中インタビューに応じてくださった佐藤先生、本当にありがとうございました。