写真家今森光彦の写真集「里山物語」との出会いが、NHKのプロデューサー村田真一にこの物語の創作意欲を起こさせ、最新の撮影技術によって捉えられた里山の様々な動植物の生態を伝えることに成功した。その後「里山」はシリーズ化され、「映像詩」として高い評価を得て、海外でも10カ国以上で放送された。そして、世界各地のテレビ祭、映像祭でも多くの賞を獲得するという快挙を成し遂げ、遂に、「里山」シリーズ第三弾「里山 いのち萌ゆる森」が劇場公開バージョンとしてスクリーンデビューすることになったのである。
SATOYAMA
2009.08.17
Photo:©2009 NHK
「里山」は、人間と自然の共生をテーマに、人を含む生き物たちが、悠久の歳月をかけて紡いできた一遍の壮大な叙事詩である。それは人と自然の奇跡の調和を描き、失われつつある美しさに警鐘を鳴らすと同時に、未来のあるべき姿をも映し出す驚きに満ちたドキュメンタリーに仕上った。
Photo:©2009 NHK
写真家今森光彦の写真集「里山物語」との出会いが、NHKのプロデューサー村田真一にこの物語の創作意欲を起こさせ、最新の撮影技術によって捉えられた里山の様々な動植物の生態を伝えることに成功した。その後「里山」はシリーズ化され、「映像詩」として高い評価を得て、海外でも10カ国以上で放送された。そして、世界各地のテレビ祭、映像祭でも多くの賞を獲得するという快挙を成し遂げ、遂に、「里山」シリーズ第三弾「里山 いのち萌ゆる森」が劇場公開バージョンとしてスクリーンデビューすることになったのである。
舞台は滋賀県北部。クヌギ、コナラだけでも2万本といわれる広大な雑木林があり、人々はかつて、薪や炭を作り、現在はシイタケを栽培している。何百年に渡って木々を利用してきた背景には、ある智恵が隠されている。伐採の際、人々は必ず切り株を残しておく。
するとそこから"ひこばえ"と呼ばれる若い芽が勢いよく萌え出し、15年ほどで再び利用できるようになるのだ。繰り返し利用されたクヌギは、根元が大きく変形し、大きな洞をもつ独特の姿になる。人呼んで"やまおやじ"。その洞にはヒキガエルやミツバチなど多くの生き物が住みつく。夏になると、甘い樹液にカブトムシが群がり、少年たちが瞳を輝かせる場となる。
この芳醇な世界を切り取るにあたり、特筆すべきなのは、NHKのハイビジョン撮影技術の高さと撮るための強い忍耐力だ。たとえば、シイタケの成長を微速度撮影しているところは、カメラが対象を廻り込んで捉える移動撮影が使われている。この手法は、カブトムシ同士の決闘のシーンで、究極の形を見せた。組み合ったカブトムシが角を使って相手を投げ飛ばす豪快なカットは、カメラが対象を一周廻って捉える。
一瞬を捉えるタイミングも見事だが、その高い技術は、かの『マトリックス』に匹敵する。さらに凄いのは、「ひこばえの成長」に代表される特殊映像の数々が自然の実景の中で撮られている点だ。その一方で、四季を通して、同じフレームで広々とした自然が捉えられる。どうやって撮影したのかと驚かされるイメージの数々は、時間の引き伸ばしや圧縮によって、見えない時間を見せてくれるのである。
Photo:©2009 NHK
こうして描かれる「里山」と呼ばれる森は、我々の祖先がいかに自然を理解していたかをまざまざと感じさせてくれる。古くより日本人は、自然を畏敬しつつも、他の生き物達とせめぎ合い、生態系を破壊しないように自然を利用する智恵を育ててきた。樹木や小石に宿る神々を感じつつ、途絶えることのない営みを続けてきた結果、里山という生活圏を作り上げたのである。
一年がめぐり、「ひこばえ」に象徴されるように、木は再生し、人と森が共生していく。不思議の森の王国をめぐる命の物語――それが映像詩「里山」なのである。
田んぼの中に雑木林が点在し、家々が身を寄せ合うように並びます。昔ながらの長閑な日本の風景です。こうした農業環境には、野菜や穀物が植えられているだけでなく、数多くの生き物たちが生息しています。人が暮らしの中で守ってきたところに、生き物もいきている、そんな土地を里山と言います。
私は、ここ30年来、今に本から急速に失われつつある貴重な里山を、写真や動く映像に記録してきました。今回、見ていただくのは、雑木林の物語です。
里山は、私たちの心を育ててくれる大切な自然。映像をご覧になって、生き物と人との複雑な係わり合いに関心をもっていただけたら嬉しいです。
1954年、滋賀県生まれ。写真家。琵琶湖をのぞむ田園風景の中にアトリエを構え活動する。自然と人との関わりを「里山」という空間概念で追い続ける。一方、学生の頃から世界各国の訪問を重ね、熱帯雨林から砂漠まで、生物と人が生きるあらゆる自然を見聞し取材している。第20回木村伊兵衛賞、第48回毎日出版文化賞、第28回土門拳賞など数多くの賞を受賞
>> 撮影スタッフ・小迫裕之さんインタビュー
>> フォトギャラリー 「映像詩 里山」
出演:今森光彦 音楽:加古隆 語り:玄田哲章 安井邦彦 髙橋美鈴
ディレクター:菊池哲理 制作統括:村田真一 石田亮史
©2009NHK 書:紫舟
上映企画:NHKエンタープライズ
配給:ギャガ・コミュニケーションズ