SATOYAMA

【映像詩 里山】撮影スタッフ・小迫裕之さんインタビュー

2009.08.17

里山に棲む動植物の生命力溢れる姿、
それらと調和した日本の自然美は、
こうして撮影された。

「マトリックス」を念頭に撮影したカブトムシの決闘シーン

『里山』の撮影期間はどのくらいなのですか。

僕はシリーズ第1作と第3作を担当したのですが、のべの撮影日数で400から500日くらいでしょうか。今回公開される第3作で二年三ヶ月、具体的には2006年4月に現地に入って、2008年6月まで撮影にかかっています。

今回一番大変だったカットはどれですか。

切り株から成長していく

時間と労力を費やしたのは、ひこばえが伸びていくところです。あれは、2007年と2008年、2回やりました。1回目は、アップを撮るとき、伸びると予想してカメラ位置を決めるのですが、狙っている場所に伸びてこなかったり、全然伸びてこなかったり。失敗すると、もうその年は撮れないので、翌年再チャレンジするしかないんです。これが撮れないと、番組が成立しないというプレッシャーがありましたね。

芽がみるみる成長していく映像に迫力を感じたのですが、どのようなテクニックを使われたのですか。

いわゆるデジタル・スチール・カメラを使いました。毎日、10分ごとに、1コマ撮影しています。

さらに驚かされるのは、カメラが移動している間に、ひこばえが成長していくカットです。

これは違う方法をとっています。まだ芽が出ていない時期と、成長する途中、完全に生えきった時期と、全部で5回ほど撮りました。カメラを回転レールに乗せ、同じ動きをさせて30秒間撮ります。その連続した映像という編集でオーバーラップさせることで、移動しながら生えてくるシーンを作ったのです。

冒頭で、画面(カメラ)が森の地面を前進移動をしながら花が咲いてくるのも、同じ手法ですね。移動の早さはどうやって合わせているのですか。

はい。動き始めと止まる位置を決め、ラジコンで操作する一定速度で動くモーター装置を作り、秒数を計って同じ速度になるように調整しながら撮影をしました。

カブトムシの決闘のシーンも凄いですね。対決している2匹をカメラが周回しながら捉えていきますが、角で相手を投げ飛ばす瞬間まで映っています。

雄のカブトムシ同士の闘い

Photo:©2009 NHK

あれは、カブトムシの周りに、30台のデジタル・スチール・カメラを配置しています。跳ね飛ばされる直前にシャッターを押すと、隣接するカメラのシャッターが少しずつずれて撮影できるように工夫しています。それが1台目から30台目まで次々シャッターが切れる。そしてまた1台目に戻り30台目まで、2周撮影できるようになっているのです。

そうした特殊撮影の機材は、NHKで開発なさるのですか。

そうですね。しかし、かなり試行錯誤の連続でした。

『マトリックス』で弾丸が飛んでくるシーンみたいですね。

『マトリックス』は念頭にありました。小さな生き物の世界でも、同じような目線で見たいと思い、360度視点を動かしていくわけですね。ただ、あの撮影で二晩徹夜しています。放り投げる直前に合わせてシャッターを切らないといけませんから大変でしたね。投げた瞬間に押すと、もう終わっているのです。最新技術を使えれば楽なのですが、人力でやっているので、まだそこまで進んでなくて・・・。

何ヶ月もカメラを据えっぱなしにして、盗難被害も

スミレの実が飛ぶところも、タイミングが勝負ですね。

あのシーンに関しては、ループという機能を使っています。カメラのメモリーに撮影対象をずっと記録し続けます。

そして、記録をどんどん消していくわけですね。

はい。シャッターを押した何秒か前からの映像が残される設定です。この機能により、シャッターを押す前のことを記録できるようになったのです。つまり実が飛んだ瞬間にスイッチを押せば、その前から収録されます。

なるほど、対象とそれをどう撮るかによって、方法をいろいろ編み出されているのですね。では、森の大俯瞰で季節が移っていく場面はどうなのでしょう。

高所作業車というクレーンで撮影しています。クレーンの置き場所を決めて、その位置からまっすぐ上がったところから、まず撮影をします。位置は目印をしておき、季節が変わったら、同じ場所で撮影を行います。微妙にずれることもありますが、それは編集の段階で位置修正をして、画面フレームを合わせます。

ひこばえの撮影など、何ヶ月もカメラを据えっぱなしにする場合、雨風などからどうやって保護したのですか。

カメラをステンレス製のがっちりした防水カバーで覆い、ちょっとやそっとでは動かないよう、足場はコンクリートで固定します。そして撮った映像は、まめにコンピューターに記録しておきます。ただ、カメラを自然のなかに置きっぱなしにするので、セキュリティの問題が起きます。実際、盗難にもあいました。

『里山』シリーズを3作品制作する間で、いろいろな試行錯誤があったのですね。

朝日に照らされる棚田

Photo:©2009 NHK

シリーズ第1作のときは、田圃が変わっていく様子を定点撮影したのですが、そのときはフィルムでした。250コマ撮れる特殊なマガジンカセットを使って、同じようにカメラのカバーを作って、毎日撮影を続けて、動画のように使いました。250コマしか撮れないので、頻繁にマガジンを交換しないといけなくて大変でした。デジカメの発達によって、画質もハイビジョン・クオリティを超えるようになり、ずいぶん撮影が自由になりました。また、当時のハイビジョン撮影はカメラとVTRが別々で、非常に大きなシステムでした。軽トラックにVTRや波形モニターなど、いろいろな機材を積み込んでいたので、車が行ける場所じゃないと撮影できませんでした。現在はニュースを撮るようなカメラで、カメラ自体に映像を収録しますからケーブルもいりません。

24時間体制で森の動物を待つ

イノシシの撮影も据え置きのカメラですね。これは危険なことはなかったのですか。

あの舞台は今森さんが所有しておられる雑木林です。そこを2年間お借りして撮影に挑戦しました。そこまで電源を引いてライトを点け、カメラを3箇所に設置しました。ライトは動物にも慣れてもらわないといけないので、ある時間帯が来たら点けたままにして、センサーで動物が来たら撮影されるようにしました。

動物との忍耐比べですね。どのくらいで撮影に成功したのですか。

1年目の秋から準備して、撮れたのが翌年の6月です。イノシシは頻繁に来るわけではなく、1週間来たらしばらく来ない。2回くらいしかチャンスはありませんでした。

ミツバチの巣箱は失敗したしかけのシーンも、作品の本編で生かしてますね。

ニホンミツバチ

Photo:©2009 NHK

本当はトチノキの下の巣箱に入ってほしかったのです。実際に熊に襲われた映像は撮ってはいないのですが、別の場所で撮れてはいるのです。結果、満足のいく映像ではなかったので、使ってないのですけど。松原さんから「熊は本当にハチミツが好きで、ハチミツの匂いがしたら、一週間くらい待って、誰もいないとわかったら捕りにくる。そこを撮ってくれ」と言われていました。巣箱から300メートル離れた車の中で待機し、そこからカメラを遠隔操作しました。24時間体制で張り込みをし、私が昼間の担当で、朝5時から夕方まで。夜はもう一人のカメラマンが来て張り込み。それを10日間続けました。それでも、熊が来たのは1回だけです。昆虫や魚であれば、採集したり育てたりと、こちら側である程度コントロールできるのですが、シカやクマ、イノシシ、サル、タヌキはこちらでどうしようもないので、とにかく時間をかけて撮るしかなかった、というのが最大の苦労でした。

生き物の生態は、どうやって研究なさったのですか。

今森さんと何度も打ち合わせをして、舞台はどこがいいか、ストーリー展開上、どの生き物ならどういうことを表現できるか、ということをリストアップし、その中から撮影対象を決めていきました。また現地で借りていた家に色々な図鑑を並べ、現地でフィールド調査をしている方から情報をもらって、ディレクターと同じところ寝泊りし、議論をしながら一緒に作っていったという感じでした。

この「里山」という作品が2年間で撮れて、本当によかったですね。撮影の中で、驚いたことや気付いたことはありましたか。

自分でも驚きだったのは、樹が凄く変化するということでした。切られたところも、みるみる枝葉で覆われてしまうのです。最初にあったミツバチの穴がもう秋には埋まっていたりするんです。ひこばえだけじゃなく、木自体がどんどん変わる。樹木は大きくなるし、切られたところは小さくなる。木がどんどん動いていることに気付きました。

最も時間と労力を費やした「ひこばえ」の成長

小迫さんの自然に対する愛情がないと、ここまで粘って撮れないと思いました。

今回の『里山』には特別な思いがありました。ディレクターの菊池(哲理)も同年代なのですが、里山みたいな環境で小さい頃を過ごした思い出があるんですね。カブトムシやクワガタを獲ったりするのが好きだったし、その思い出にあるような、人が絡んでくる自然ものをずっとやりたいと思っていました。

最後に皆さんにここはぜひ見て欲しいというメッセージをお願いします。

撮っていていいなと思ったのは、お盆なんです。今回表面にはあまり出ていないかもしれませんが、「生」と「死」という裏のテーマがあって、それを強調するのが、お盆の場面です。自分のおじいちゃん、おばあちゃんと過ごして、何となく神妙な思いにふけったりしますよね。田舎に行って過ごした思い出の心地よさというか、そうした気分を少しでも感じてもらえればいいなと思います。

聞き手・構成:筒井武文(映画監督・東京芸術大学大学院准教授)

小迫裕之(こざこひろゆき)

小迫裕之(こざこひろゆき)

1969年生 山口県岩国市出身 1994年 NHK入局以来、主に自然・科学系番組の撮影を担当する。 主な担当番組は、「NHKスペシャル 映像詩・里山~覚えていますか ふるさとの風景~」「NHKスペシャル 白神山地 命そだてる森」「国際共同制作 赤道・生命の環 アマゾン・黄金の大河」「NHKスペシャル 映像詩・里山 森と人 響きあう命」 等。 担当した番組が国内外の数々の賞を受賞するとともに、個人としてもハイビジョン国際映像祭個人業績賞(撮影監督)/日本映画テレビ技術協会鈴木賞奨励賞/同小倉・佐伯賞/国際野生生物フィルムフェスティバル最優秀撮影賞等を受賞

JAPAN HOTSPOT×「映像詩 里山」

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8月22日(土)新宿ピカデリー他 全国順次ロードショー

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出演:今森光彦 音楽:加古隆 語り:玄田哲章 安井邦彦 髙橋美鈴
ディレクター:菊池哲理 制作統括:村田真一 石田亮史
©2009NHK 書:紫舟
上映企画:NHKエンタープライズ 
配給:ギャガ・コミュニケーションズ