SATOYAMA

里山とかかわる暮らしを

2009.07.13

季節の指標

里山の田んぼ

家の前に広がる田んぼ。畦にも土手にも山にも、周りには生き物がにぎわっています Photo:©Yokohama Satoyama Institute

ぷ~ん、という言葉に連想される香しい匂いがしてくると春の訪れを感じます。それは田んぼの肥やしのにおい。田んぼに水が引かれるとアカガエル類にはじまり、田植えが終わればアマガエル等の大合唱。電話をしていると、相手にも聞こえる大ボリューム。私が育った家の前には田んぼが広がり、その周辺にはコナラ、ミズナラ、クリなどが混じった雑木林やマツやスギで構成された屋敷林が点在し、畑の多くが桑畑という養蚕地帯で、季節ごとに多くの生き物たちがにぎわいを見せていました。

いま考えればまさに、里山という言葉に象徴される場所です。

「里山」は、伝統的な農村の暮らしを支えてきた自然空間です。薪や炭の材料を採り、肥料にする落ち葉を集めた林のほか、田畑、小川、草はら、ため池、屋敷などが調和して落ち着いた景観を形成し、多様な生き物の生息環境ともなっています。また、地域特有の文化も育まれました。日々の暮らしを営むなかで人々は協力し合い、自然に感謝しながら、里山から得られた産物を生活の糧にし、限りある資源を無駄なく利活用する知恵や技、考え方を、親から子へ、子から孫へと引き継いできました。

人と人が集う

里山に育まれる文化

地域の行事に参加するのも、里山に育まれた豊かな文化にふれる瞬間です Photo:©Yokohama Satoyama Institute

里山や暮らしを維持するため、人は結や講などの共同組織を作ってきました。

念仏講というものがあります。念仏を唱える講(会合・結社)のことで、在家の人々が地域で行うものをさす場合が多く、主に女性たちが行い、開催日にはお堂や公民館、当番の家などに集まり、大きな数珠を繰りながら「南無阿弥陀仏」の念仏を唱え、様々なことをお祈りしました。念仏が終わると皆で食事や茶菓子を共にし、噂話や家族のことなどを談笑しながら過ごすことが、女性たちの楽しみのひとつだったそうです。念仏講は宗派に関係なく、葬祭や安産祈願など内容も地域により異なり、日々の年中行事のひとつとして、人と人の関係を紡ぐ場として機能してきました。

私のばあちゃんにも念仏講について聞いてみたところ、「畑を耕すとミミズや小せい虫たちを殺しっちまうんだぁ。んだがら、みんなで供養してやんだぁ」とのこと。はじまった時期や由来はわかりませんが、ばあちゃんのお母さんの、そのまたお母さんと、伝え続けられてきた地域の習わしでした。

里山とともに失われる人のつながり

しかしながら、この念仏講は10年ぐらい前に途絶えてしまいました。うちの地域は順番に当番の家に集るやり方でしたが、食事や茶菓子は当番の家ですべて準備するため、高齢になった自分たちだけで仕切るのは難しく、会社勤めに出ている嫁や娘に頼らざるを得ず、若い者に迷惑がかかるから止めようとなったそうです。

高齢になったばあちゃんたちとはいえ、各々忙しく、家庭の事情もあり、一堂に会す機会は限られています。気心知れた仲間で集まる場が、またひとつなくなることを話すばあちゃんはとても寂しそうでした。

農作業も機械化され、近所総出で手伝いという風景も少なくなり、道普請や土手の草刈をする人手、祭りの寄付や神輿の担ぎ手が集まらないなど聞かれるようになりました。地域のつながりが希薄になりつつあるのは、都市部だけでなく、農村部でも同じ様です。

半世紀前まで、里山のような自然や地域のつながりは身近なものでした。高度経済成長期以降、化石燃料が生活に浸透するようになると、利便性を求め、手間のかかる作業を放棄しました。里山の自然は荒れ、次第に里山を棲処とする生き物たちも姿を消し、先人たちの知恵や考え方も手放していきました。

里山とかかわる暮らしを

里山のめぐみ

太陽をいっぱい浴びた旬の野菜を食べるのが、いちばん美味しい Photo:©Yokohama Satoyama Institute

里山には、人がかかわることにより形成された自然環境として、人と自然が共生するヒントがあります。また、人の知恵と地域の連携とで、その恵みをいただきながらも、資源を枯渇させることなく続けられてきた、持続可能な社会づくりのヒントもあります。今、その価値が改めて見直され、保全や再生活動が全国各地で行われています。

里山とのかかわり方はいろいろ。

例えば、地元農家の野菜を食べる、日本の竹や木で作られた道具を使う、季節が堪能できる年中行事をやってみる、地域の祭りや普請に参加してみる等々。

「里山とかかわる暮らしを○○○」(○○○には「する」「つくる」等、今の自分にできることを当てはめてみて下さい)ことで、何かとつながること間違いなしです。

よこはま里山研究所 NORA
http://nora-yokohama.org/

Written by 丹治由美(よこはま里山研究所 NORA)