井田徹治/環境記者の取材メモから
2010.05.27
セラードのハチドリ
Photo: © Tetsuji Ida
今回もブラジルのお話です。広大なブラジルには多くの貴重な生物が生息することが知られていますが、その中で最も生物多様性が豊かな場所は、どこだと思われますか?熱帯林破壊が進むアマゾン地域でしょうか?マタ・アトランティカでしょうか?あまり知られていないのですが、ブラジルの中で最も生物多様性が豊かなのは「セラード」と呼ばれる地域です。セラードとは、ブラジルの中央部に広がる熱帯サバンナ(草原)地帯のことを指します。面積は2億ヘクタールを越え、ブラジルの国土の5分の1になります。
ここには12,000種以上の動植物が生息し、固有の植物種は4,400種超にもなる極めて豊かな生物多様性が存在することが知られています。ブラジルの生物多様性の3分の1がセラードに存在するとされます。
セラードの生態系は草原から低木林、高木林まで極めて多彩で、オオハシや小型のダチョウのレア、ハチドリなど多くの鳥が飛び回り、アリクイやタテガミオオカミなどの希少な哺乳類が姿を見せることもあります。
多くが赤土に覆われ、農業には不向きだとされていたこの地は、今では世界有数の食料生産基地になっています。このセラード開発に大きな役割を果たしたのは、1980年ごろから膨大な資金や人材、技術を投じて行なわれた日本の政府開発援助(ODA)でした。
セラード開発は世界の食料供給やブラジルの経済成長に大きな貢献をしたのですが、今では、農地開発がセラードの生物多様性喪失の最大の原因になっています。現在、手付かずで残っているセラード地域は、原生のセラードの20%余にまで減り、アマゾンの熱帯林をはるかに上回る速度で破壊が進んでいます。
かつては「開発」に貢献した日本のODAですが、今日では、生物多様性保全と持続可能な発展に重点を置いた技術や資金の援助を行なうことが求められています。
1959年東京都生まれ。東京大学文学部卒。共同通信社に入社し2001年から2004年まで、ワシントン支局特派員(科学担当)。現在、科学部編集委員。環境と開発の問題を長く取材。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)総会、気候変動枠組み条約締約国会議、ワシントン条約締約国会議、環境・開発サミット、国際捕鯨委員会総会など多くの国際会議も取材。著書に『大気からの警告—迫りくる温暖化の脅威』、『ウナギ 地球環境を語る魚』、『環境異変』など多数。