井田徹治/環境記者の取材メモから
2010.02.08
ベリーズの海に浮かぶNGOの船
Photo: © Tetsuji Ida
世界最大の魚、ジンベエザメも数が減り、絶滅危惧種とされている魚の一つです。ワシントン条約では付属書Ⅱに掲載され、国際取引が規制されているし、IUCNは「絶滅の危険が増大している」としています。直接、漁業の対象とされるほか、漁網への混獲も個体数減少の一因とされています。
中米にあるベリーズというカリブ海に面した小さな国は、沖合にこのジンベエザメが定期的に回遊してくることで知られています。海にはオーストラリアのグレートバリアリーフに次ぐ規模の巨大なサンゴ礁が広がり、世界自然遺産にも登録されています。四国より少し大きな国土に約30万人の人が住んでおり、漁業は、美しい海とフレンドリーな人々が住む小さなこの国にとっての主要な産業の一つです。
漁業は比較的小規模なのですが、乱獲が深刻なのは例外ではありませんでした。アメリカへの市場が開かれ、魚介類の輸出が可能になった1970年代後半以降、それは特に激しくなり、資源の減少や海の環境破壊が深刻化し、ジンベエザメの混獲なども増えたとされています。
プラセンシアという小さな村の漁民が、この流れをどうにか食い止めようと「フレンズ・オブ・ネイチャー」という保護団体を設立したのは1996年のことでした。彼らは、自ら海に禁漁区やジンベエザメの保護区を設定し、船で密漁の監視役を引き受けました。政府に働き掛けた結果、2000年に、彼らの保護区は国立の自然保護区になりました。彼らは、ジンベエザメを売り物にしたエコツーリズムの振興にも力を入れ、欧米から多くのダイバーや観光客がやってくるようになりました。漁民の多くがガイドに転業したために、資源に対する漁業の圧力は小さくなりつつあると言います。
日々の収入の確保に追われて、多くの漁民が、どんどん少なくなる魚を奪い合うようになって結果、資源もなくなり、漁業も立ちゆかなくなる。ベリーズの人々は、自分たちの努力で、世界各地で進むこの種の悪循環を断ち切る道を見つけつつあるようです。カリブの小国のこの試みは、日本の漁業と生物多様性を考える時にも、重要なヒントになるものだと思います。
1959年東京都生まれ。東京大学文学部卒。共同通信社に入社し2001年から2004年まで、ワシントン支局特派員(科学担当)。現在、科学部編集委員。環境と開発の問題を長く取材。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)総会、気候変動枠組み条約締約国会議、ワシントン条約締約国会議、環境・開発サミット、国際捕鯨委員会総会など多くの国際会議も取材。著書に『大気からの警告—迫りくる温暖化の脅威』、『ウナギ 地球環境を語る魚』、『環境異変』など多数。