道家哲平/生物多様性条約の半歩先

ABSについて、さらに踏み込んでみる・先住民グループの参加のわけ

2009.12.25

「COP9(ドイツ)では、先住民族代表のスピーチが各国の環境大臣があ
				つまる閣僚級会合でも行われた」

「COP9(ドイツ)では、先住民族代表のスピーチが各国の環境大臣があ つまる閣僚級会合でも行われた」

前回のコラムで、ABSについて書きました。今回は、ABSを切り口に先住民の参加について紹介したいと思います。

いよいよ、CBD-COP10/MOP5の開催年となりました。今のところ参加予定者は7,000人と見積もって準備が進められているそうです。どんな人々が来られるかというと、各国政府代表や、国際NGO、企業、研究者、メディアなどですが、中でも異彩を放ちながら参加すると思われるのが、先住民・地域共同体です。

彼らは国際用語でILC(Indigenous and Local Communities)というグループに別けられます。生物多様性条約に限らず、国連の様々な会議に独自の発言権を持って参加が認められており(CBDでは、先住民参加を促進するための基金も存在します)、COP9では、登録ベースで160名近くのILCの参加者がありました。民族のアイデンティティへの誇りからも、民族衣装や特殊な化粧をして参加する方が多いため、見た目にもはっきり分かります。

当然ながら、遊びに来るわけではありません。CBDの会議にくるべき理由があります。

その一つが、ABSとの関係です。といっても難しくはありません。こういうことです。 地球上には、1000万から3000万という生物種が存在すると言われています。例えば、探索も困難なアマゾンの森に分け入り、その中から「最も効率的」に、有用な遺伝資源を探すにはどうすればよいでしょう?答えは簡単、先住民族が培ってきた伝統医療に使われてきた動植物から遺伝子探索をするのです。

ABSの学習をする際の教科書的な事例の一つに「フーディア」というダイエット薬品に使われた南アフリカの植物の事例があります。サン族が狩猟で長い旅行をする際に飢えを抑えるというこの植物は、その食欲抑制効果が注目され欧米でダイエット薬として大ヒット商品となりました。

CBDでは、第15条で遺伝資源の取得(アクセス)と利益配分についての規定を定めていますが、その必要な手続きの一つにPIC(事前の充分な情報に基づいた同意)というものがあります。フーディアの事例では、もう予想の通り、サン族に何の情報提供も同意もなく、フーディの薬効についての特許の取得がなされていしまいました。(詳しくはIUCNセミナー「遺伝資源へのアクセスと利益配分」(2009年1月31日)(http://www.iucn.jp/cbd/pdf/seminar_report090131.pdf参照)。

ABSの議論が深まれば深まるほど、伝統的医療などで利用されている生物資源が真っ先に対象となるということがお分かりでしょうか。だからこそ、生物多様性条約では8条(j)項に伝統的知識の保護の規定を定め、先住民族の参加を推進しているのです。 もちろん他にも、先住民と生物多様性を巡る問題は多岐に及びます。顕著な事例として、過去の保護地域政策と先住民の土地所有の問題などもありますが、これは、コンサベーション・インターナショナルさんに書いて欲しい気がします。いかがでしょう日比さん。


道家哲平

道家哲平(どうけてっぺい)

1980年東京生まれ、千葉大学大学院修士課程修了・人文科学(哲学)専攻。2003年より、日本自然保護協会(NACS-J)保全研究部に所属。IUCN(国際自然保護連合)日本委員会の事務局担当職員。生物多様性に関する国際動向を紹介するIUCNセミナーの企画運営・普及啓発などに携わる。生物多様性条約(CBD)や2010年のCBD-COP10に向けたNGOのネットワーク化に尽力中。生物多様性条約市民ネットワーク運営委員、生物多様性フォーラム評議員。