井田徹治/環境記者の取材メモから
2009.12.08
フィリピンの魚市場 Photo:©Tetsuji Ida
魚は非常に多様性に富んだ生きもので、世界中に約2万種ほどが生息しているとされています。最大の魚は日本の水族館でも人気のジンベエザメで、体長は15メートルを越えます。これまで知られている中で最も小さい魚は2006年にインドネシアの湿地で発見された魚で、成魚になっても8ミリにしかなりません。魚の世界がいかに多様かが分かります。
魚は種類が豊富なだけでなく、その量が多いことでも知られてきました。「寿限無」という落語をご存じでしょうか?生まれた子どもに親が、おめでたい名前を付けようとしたら、名前がどんどん長くなってしまった、という噺ですが、寿限無君の名前の一部に「海砂利水魚」というものがあります。海の砂利や水の中にすむ魚は、数に限りがないもの、いくら捕ってもなくならない。だから、おめでたいのだという訳です。
ところがどうやらこれも最近では怪しくなってきました。無限とも思えた海の魚の多くが、乱獲によって急激に減っています。最初に紹介したマグロの仲間以外にも、ヒレが中華料理の高級食材に使われるサメ類、ハタの仲間、キャビア目当ての乱獲が深刻なチョウザメ類など多くの魚が絶滅危惧種とされるようになり、ワシントン条約の対象種とされる漁業対象種も増えています。
カナダのブリティッシュ・コロンビア大の著名な海洋生態学、ダニエル・ポーリー博士は、マグロやサメ、タラなど、生態系の上位にある大型の魚が漁業によって乱獲されて減少した結果、海の生態系が大きく変わり、海の生物多様性にも悪影響を与えていることを、豊富なデータをもって示した論文を発表して注目されました。
「食物連鎖の上の方からどんどん、魚を乱獲して減らしていけば、そのうち人間が利用できるシーフードはクラゲだけになってしまう」--。日本の近海に押し寄せる巨大なエチゼンクラゲを見ていると、博士のこの警告が現実のものとなりつつあるように思えます。
1959年東京都生まれ。東京大学文学部卒。共同通信社に入社し2001年から2004年まで、ワシントン支局特派員(科学担当)。現在、科学部編集委員。環境と開発の問題を長く取材。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)総会、気候変動枠組み条約締約国会議、ワシントン条約締約国会議、環境・開発サミット、国際捕鯨委員会総会など多くの国際会議も取材。著書に『大気からの警告—迫りくる温暖化の脅威』、『ウナギ 地球環境を語る魚』、『環境異変』など多数。