日比保史/It's not the HOW, it's the WHY

目標にすべきは、Can か Mustか?

2009.11.19

「

「"Can" we protect these children's future? Or do we "must"?(フィリピン・ルソン島にて) 」Photo:©Yasu Hibi, Conservation International

来年のCBD-COP10での重要な議題のひとつが、「ポスト2010年目標」です。2002年に国際社会は、「2010年までに生物多様性の損失速度を著しく抑制する」という、いわゆる2010年目標を立てましたが、その次の目標を国際社会の約束事して決め、今後数十年間に国際社会が向かうべき方向性を合意しようというとても重要な目標となります。このポスト2010年目標の交渉・合意に向けて、COP10のホスト国で議長国となる日本は、国際社会に先駆けてポスト2010年目標の日本政府案を発表しました。日本政府は、日本案を国民の総意として国際社会に提案すべく、まさに今パブリックコメントを募集(11月27日正午が〆切です)しています(http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=11723 )ちなみに、政府では様々な政策について、その立案過程で国民からの意見をパブコメとして聞いています。ポスト2010年目標に限らず、国民の声を直接政策立案過程に届けるこの機会を活用しましょう!)。このような開かれたプロセスは、条約事務局長はじめ国際的にも高く評価されています。

でも、肝心なのは、もちろん目標そのものでしょう。 詳しい内容については、上の環境省ホームページから見ていただくとして、柱を紹介しますと、中長期(2050年)目標として「人と自然の共生を世界中で広く実現させ、生物多様性の損失を止め、その状態を現状以上に豊かなものとするとともに、人類が享受する生態系サービスの恩恵を持続的に拡大させていく」、短期(2020年)目標として「中長期目標を達成するため、① 生物多様性の状態を科学的知見に基づき地球規模で分析・把握する。生態系サービスの恩恵に対する理解を社会に浸透させる。② 生物多様性の保全に向けた活動の拡大を図る。将来世代にわたる持続可能な利用の具体策を広く普及させる。人間活動の生物多様性への悪影響を減少させる手法を構築する。 ③ 生物多様性の主流化を図り、多様な主体が新たな活動を実践する」と提案しています。

2050年までに、「現状(2010年時点を指すのでしょうか)と比べて生物多様性の"no net loss"を実現しよう」という野心的(しかし、絶対必要)な中長期目標は、国際社会にも十分評価されるでしょう。一方で、私は、短期目標の方は不十分ではないかと考えています。

まず、この中期目標は、「目標」ではなく、目標を達成するための道筋・手段となっています。本当の意味での目標とするなら、2050年に至る過程で、2020年に「何合目」を目指すのかを示す必要があるでしょう。

さらには、2050年にno net lossを達成するのであれば、少なくとも2020年くらいまでに生物多様性の損失を止めることができなければ(それでも2010年までは損失が続くことになるのですから!)、その後30年間で現状よりも生物多様性を良い状態に回復させるのは、難しいのではないでしょうか。しかも、2050年には、人口が90億人を超えると言われているのですから。

日本政府とNGO・研究者との意見交換会では、「達成可能な目標を立てることが、取り組みを促進することになる」との説明が政府からありました。確かに、明らかに実力を超えた目標を設定しても、むしろやる気を削ぐだけのことになることはありえるでしょう。(ちなみに2010年目標は、達成できないというのが国際的に共通の認識となっています。)手の届きそうな、実現性のある目標を立てる、つまり「can」をベースに取り組みを考えていくことも、意味がある場合があることも確かでしょう。しかし、生物多様性問題は、私たちの子や孫、またその子や孫の世代が、心身ともに健やかに暮らしていけるかどうか、そして38億年の生命の進化を守れるかという人類の生存と社会の持続性を左右する問題です。この問題を解決するには、達成できそうな「can」の目標ではなく、必ず達成しなければならない「must」の目標を設定し、やらなければならないことを何が何でも成し遂げる。そのような厳しい考え方で臨むが必要だと思いますし、それがホスト国、議長国日本の責務ではないでしょうか。でなければ、「目標は達成できたけれども生物多様性は失われました」という本末転倒の事態になりかねないように思います。

日比保史

日比保史(ひびやすし)

コンサベーション・インターナショナル・ジャパン代表。(株)野村総合研究所、国連開発計画(UNDP)を経て、2003年現職。環境省企業生物多様性ガイドライン検討委員、同省VER検討委員、同省森林パートナーシップ検討委員、緑の認証機構評議員、モアトゥリーズ評議員、上智大学地球環境研究所非常勤講師などのほか、多数の企業のステークホルダーダイアログに参加。共著に『Hotspots Revisited』、『生態学からみた保護地域と多様性保全』など。神戸出身、葉山在住。