道家哲平/生物多様性条約の半歩先

絡み合う三つの目的 今、生物多様性条約は危機的状況にある?

2009.11.05

海賊の扮装をしながら、政府や企業によるバイオパイラシーの事例を糾弾
				するNGO@COP9会場にて

海賊の扮装をしながら、政府や企業によるバイオパイラシーの事例を糾弾 するNGO@COP9会場にて Photo:©日本自然保護協会

生物多様性条約(CBD)の第10回締約国会議(COP10)に向けた多くの1年前イベントが各地で開催されました。私にとって印象的ものの一つが、A SEED JAPANが行った「生物多様性とCSRセミナー」です。CSRとつけられていますが、主たる課題は条約の3つの目的の一つ、そしてあまりメディアでも取り上げられていない目的の一つでもある遺伝資源へのアクセスと利益配分(Access and Benefit Sharing)でした。

IUCNが1982年の第3回世界公園会議の成果として、生物多様性条約を提案したといわれていますが、その論文のタイトルは「将来にわたる野生の遺伝的資源の保護-世界条約の必要性(Cyrille de Klemm, "Protecting Wild Genetic Resources for the Future -The Need for a World Treaty")」 というものです。つまり、遺伝資源を巡る諸問題に対処するためにCBDが生まれたといっても過言ではないのです。

このことを、A SEED JAPANのセミナーに講師で参加されたクリスティーナ・フォン・ヴァイゼッカー氏が強調されていました。クリスティーナ氏の話を私なりに要約するとこうなります。「生物多様性条約の3つの目的は同時に達成されなければならない。ABSとは、公正・公平な世界を作るという哲学に基づくものであり、この精神が無視されるのであれば、発展途上国が生物多様性の保全や持続可能な利用を積極的に進めようという動機もうしなわれることになる」ということです。 先進国の企業なり研究機関が、何の許可も取らず、一方的に遺伝資源を発展途上国から持ち出す、利用すること、あるいは、何の利益(この場合の利益は、資金だけを意味するではなく、研究成果や情報の地元還元なども含みます)も原産国に提供しないことを「バイオパイラシー(生物資源の収奪行為)」と呼びます。現在、生物多様性条約では、そのような遺伝資源の取得や、利益配分を巡るルール作りをしており、そのルールを各国でしっかり守るよう法的拘束力を持たせるかどうかで、激しい国際交渉が行われています。

クリスティーナさんは、法的拘束力が必要といっています。そのことを、分かりやすい言葉で話していました。「仮に、ある人のお庭が、多様な生命の営みであふれいて、その人も庭を愛し、手塩にかけて育ててきたとしましょう。そこへ、暴力的で傲慢な隣人が何度も何度も土足で入り、庭の果実を奪っていったとしたら、あなたは、その人がこれからも庭を守り、育てていくと思いますか?」
私たちが、普段使う医薬品の多くは天然資源由来といわれています。私たちの健康のために医薬品を利用することが、その原材料を守り、育んできた発展途上国にとっても価値あるものになっているでしょうか?このABSを巡る生物多様性条約の会議は今度11月9日から、カナダのモントリオールで開催されます。

道家哲平

道家哲平(どうけてっぺい)

1980年東京生まれ、千葉大学大学院修士課程修了・人文科学(哲学)専攻。2003年より、日本自然保護協会(NACS-J)保全研究部に所属。IUCN(国際自然保護連合)日本委員会の事務局担当職員。生物多様性に関する国際動向を紹介するIUCNセミナーの企画運営・普及啓発などに携わる。生物多様性条約(CBD)や2010年のCBD-COP10に向けたNGOのネットワーク化に尽力中。生物多様性条約市民ネットワーク運営委員、生物多様性フォーラム評議員。