日比保史/It's not the HOW, it's the WHY
2009.07.03
Photo:©CI
先日、とあるビジネス誌で世界3大投資家の一人、ジム・ロジャース氏のインタビュー記事を読みました。ロジャース氏は、ジョージ・ソロス氏らとともにヘッジファンドのさきがけとなった人物で、5年だか10年だかで4000%の利回りを達成するなど、カリスマ投資家と呼ばれている人です。
さて、このロジャース氏、インタビューで大変興味深いことを語っていました。ひとつは、国の発展と人口の関係性。曰く「世界史上、人口が減少しながら発展した国はない。日本は、人口増加に転じなければ、生活水準を下げていくしか国は成り立たない」とのこと。出生率を上げることではなく、道路などのインフラ開発、農業への補助金などに予算をつぎ込む国の政策に疑問を呈していました。
もう一つは、日本の国の衰退を止めるために「日本人は、海外に目を向けよ。若いうちから外国生活などを経験すればよい」というものです。フランスなどは、出生率の低下を転換することに成功しましたし、欧州諸国やシンガポールなど移民の受け入れによって経済発展を成し遂げている国を見習えということでしょう。特に、若者が世界へ出て行き、世界の人々のことを理解すれば、移民を受け入れに寛容な社会へ変わることが出来るというものです。
このロジャース氏の指摘が、生物多様性とどう関係があるのでしょうか。まずは、反論です。
人口が増加することによって国あるいは経済が発展するモデルは、「公共財としての資源・環境」を前提としています。
公共財とは、「利用者が増えても皆等しく便益を享受でき(非競合性)、かつ対価を支払わない者を便益享受から排除できないもの(非排除性)のこと。例えば、テレビ電波、外交政策などは、新たな受益者が費用を負担しようがしまいが、その便益は質の劣化を伴うことなく、受益者にあまねく行き渡るゆえに公共財です。
人口増加をベースとする発展モデルでは、資源、エネルギーを含む生態系サービスが、公共財的性質を有することが前提になっています。これは、生態系サービスを提供する地球の規模が、総人口に対して十分大きかった場合には成り立ちましたが、人口が今世紀半ばには90億人に達する世界においては、もちろん成り立ちません。
では、どうするか。ロジャース氏の2点目は、経済発展モデルの大前提が置き換わったとしても、十分成り立ちます。日本人が世界に目を向ける、内向き思考を抜け出し地球思考をしていくことは、地球の限られた生態系サービスをいかに最適配分(あるいは享受)しながら発展していくかを考える上で、不可欠です。
日本は、高度に工業化が進んだ経済大国でありながら、ホットスポット足りうるワールドクラスの生物多様性が残されている珍しい国です。
これは、何も日本の経済・社会のあり方が持続的であるからではなく、近代以降、環境・生態系にかける負荷、生態系サービスを受益するための費用の大半を海外に移転してきたからではないでしょうか。
食料自給率は、4割を切っています。木材・パルプの自給率は2割前後です。エネルギーは、ほとんど全て輸入に頼っています。逆の言い方をすれば、日本の社会・経済は、海外の生態系サービスに依存しており、ジャパン・ホットスポットの生物多様性を支えているのは、日本人ではなく、これらの生態系サービスを提供してくれている国の人々、といいかえることができます。
例えば、日本の基幹産業である自動車の原材料の大半は、元は海外から輸入されています。僕は以前、インドネシアのスマトラの森林地帯(というかわずかに原生林が残された地帯)を訪れたとき、多くのゴム園を見ましたが、そこで聞いてみると、「ほとんどヨコハマへ運んでいる」とのことでした。
つまり、1日当りの収入が数ドルという人々が、生計を立てるために裏山でゴムの樹を植え、熱帯の厳しい気候の下、それを採集、加工し、日本へ輸出してくれているのですね。自動車のボディーに使われる鋼板やハイブリッドカーのシステムに不可欠なレアメタルなども、多くの場合は、守るべき生態系を掘り起こすことによって得られています。
生物多様性は、生き物の話だけではありません。世界の経済、社会のあり方を見なければ、日本の生物多様性の現状は理解できず、保全していくことも難しいのでしょう。
そして、地球規模での生物多様性が生み出す生態系サービスが最適配分されて始めて日本も発展できるのではないでしょうか。カリスマ投資家の「日本人よ、世界を見よ」という指摘は、生物多様性保全の観点からも重要といえますよね。
コンサベーション・インターナショナル・ジャパン代表。(株)野村総合研究所、国連開発計画(UNDP)を経て、2003年現職。環境省企業生物多様性ガイドライン検討委員、同省VER検討委員、同省森林パートナーシップ検討委員、緑の認証機構評議員、モアトゥリーズ評議員、上智大学地球環境研究所非常勤講師などのほか、多数の企業のステークホルダーダイアログに参加。共著に『Hotspots Revisited』、『生態学からみた保護地域と多様性保全』など。神戸出身、葉山在住。