道家哲平/生物多様性条約の半歩先
2009.06.25
先住民族グループと自然保護系団体との意見交換会の様子(第2回保護地域作業部会(イタリア・ローマ 2008年2月)にて) Photo:©日本自然保護協会
先日、生物多様性条約の締約国会議のことがニュース番組で「生態系保護の会議」と紹介されていました。生態系の保全は重要なテーマでありますが、今回は、「保護の条約」だけではないという条約の姿をご紹介したいと思います。
今回の「半歩先」の題材は、生物多様性条約の条文に盛り込まれなかった「幻の15条」についてです。
1992年5月22日、生物多様性条約の全42条が合意されました。実はこの本文の採択の直前に削除された条文があります。それは、「保護地域の世界リスト」を作ることを規定したもので、原案では第15条にありました。生物多様性上重要な地域(または可能性のある地域)の保護地域の指定を促進するものだったそうで、発展途上国が「保全」を一方的に押し付けられるとして拒否し、削除されたのです。
条約に対する発展途上国の論理を、乱暴に要約すると「豊かな自然環境を破壊して経済発展を果した先進国が、やっぱり大事だったからと多様性豊かな地域が残されている我々(発展途上国)に守れというのは一方的だ」さらには「先進国の企業多様な生物種の遺伝資源や生化学物資をつかって薬を開発し、利益を上げて、その生物種の生息地である熱帯林などを守っている発展途上国に何の利益も還元しない」というものでした。
財団法人日本自然保護協会は、1992年5月20日付で「幻の15条」の維持を働きかけるよう要請する文書を国連環境計画事務総長、IUCN(国際自然保護連合)事務総長宛に出しました。もし、この15条が生きていたら、、、。恐らく、開発から守られた地域は残されていた事でしょう。現在、環境省が進めている「生物多様性ホットスポット」のリストも既に日本で作られているに違いありません。
ただし、この一連の動きをどう評価するかは、先進国の私たちだけでは答えを出せないと考えるようにもなりました。生物多様性条約の保護地域作業部会では、先住民族グループと先進国NGOとの間で、激しいやり取り(時には糾弾)が行われます。「先進国のNGOが拙速に保護地域の拡大を働きかけたせいで、自分たち先住民の権利が蔑ろのまま自分たちが住んでいた土地が保護地域にされてしまった」。
保護地域は、第10回締約国会議の主要議題(詳細検討項目)の一つ。21世紀の保護地域のあり方も話題になる予定です。来年名古屋の会議を、単純に「生態系の保護」の会議と位置づけてしまうことは条約の本質を見損なうことになるかもしれません。
1980年東京生まれ、千葉大学大学院修士課程修了・人文科学(哲学)専攻。2003年より、日本自然保護協会(NACS-J)保全研究部に所属。IUCN(国際自然保護連合)日本委員会の事務局担当職員。生物多様性に関する国際動向を紹介するIUCNセミナーの企画運営・普及啓発などに携わる。生物多様性条約(CBD)や2010年のCBD-COP10に向けたNGOのネットワーク化に尽力中。生物多様性条約市民ネットワーク運営委員、生物多様性フォーラム評議員。