草刈秀紀/条約と法律と現場から

「気候変動は肺炎、生物多様性は内臓疾患?!その関係とは-」

2009.06.10

1992年6月、リオデジャネイロにおいて開催された国連環境開発会議における主要な成果として、「気候変動枠組条約」とともに「生物多様性条約」が採択されました。このコラムでは今更述べる必要もないことかも知れません。しかし、この2つの条約は、地球を守る双子の条約と言われています。

日本は、1993年5月28日に、生物多様性条約を締結し、2009年2月現在、191カ国および欧州共同体が締結していますが、米国は未締結となっています。

生物多様性条約には、3つの大きな目的が掲げられています。1つ目が「生物の多様性の保全(種や生態系の保全等)」です。一般的には、この目的が浸透していますが、2つ目の目的「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」や「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で公平な配分」については、あまり知られていません。生物多様性条約が何故重要なのか分かりやすく説明しましょう。

地救人

Image:©Hidenori Kusakari


気候変動による地球温暖化が地球に深刻な影響をもたらしていますね。そして、生物多様性の劣化や損失、持続可能な利用を無視したことが地球に深刻な影響をもたらしていますね。

では、"地球"を"人体"に例えるならば、地球温暖化問題は、肺炎か肺ガンになっている状況と言えます。肺の疾患は、人に取って命取りになるでしょう。私たちが毎年、健康診断で定期的に胸部レントゲンを撮って診察していることが、いわゆるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の20年間の蓄積データによる結果に当たります。

一方、生物多様性の危機は、いわゆる内臓疾患にあたると思います。地球の五臓六腑が深刻な状態であることが国連ミレニアム生態系評価(MA)で明らかにされました。MAとは、①地球の生態系の変化が人間の福利に及ぼす影響を評価すること。②生態系の保全と持続的な利用を進め、人間の福利への生態系の貢献を高めるために、取るべき行動は何かを科学的に示すことでした。この地球の科学的なデータは、5年程度の蓄積でしたが、いわゆる胃や大腸の検査を行うバリウム検査を行って、生態系の危機的な状況の一端が見えてきました。しかし複雑な野生生物のバランスや生態系の現状は、まだまだ科学的に解明されていないことが多いのです。

生物の多様性は、微妙な均衡を保つことによって成り立っており、科学的に解明されていない事象が多く一度損なわれた生物の多様性を取り戻すことが困難である為、科学約知見の充実に努めつつ生物の多様性を保全する予防約な取り組み方法が重要になります。

2010年、第10回生物多様性条約締約国会議で病み行く地球の実体が明らかになると共に、救済方法が議論されます。仮に肺炎(温暖化問題)が克服されたとしても、内臓疾患に対して手を打たなければ、地球は、やがて衰えて死ぬことになります。

日本では1992年の地球サミット前後に地球環境問題を考えるためのキャッチフレーズとして"Think globally, Act locally"(地球規模で考え、身の回りから行動する)がよく使われるようになりました。最初に使われ始めたのは1905年のようです。{The original phrase "Think Global, Act Local" first appears in the book "The Evolution of Cities" (1905) by Scots Planner and social activist Patrick Geddes.}

地球規模で考え、身の回りから行動するこの考えは、21世紀に入って変わったと言えます。現在は、"Think climate change, Act biodiversity"となります。気候変動問題を考え、身の回りの生物多様性を保全することが求められています。

草刈秀紀

草刈秀紀(くさかりひでのり)

(財)世界自然保護基金ジャパン自然保護室次長。日本大学農獣医学部拓殖学科卒。(財)日本自然保護協会の嘱託職員等を経て、1986年、WWFジャパン入局。愛知万博検討会議委員、千葉県ちば環境再生基金助成部会委員、東京都東久留米市環境基本条例検討会委員、京都府絶滅の恐れのある野生生物の保全制度に関する研究会委員、野生生物保護学会理事等多数歴任。G8サミットNGOフォーラム環境ユニット生物多様性イシューリーダー。自然保護を巡る論考等多数。