日比保史/It's not the HOW, it's the WHY

指標の意味と意義~企業にとって生物多様性を評価するということ

2009.04.22

特に貧困層の人たちは生物多様性の直接的恩恵への依存度が高い

特に貧困層の人たちは生物多様性の直接的恩恵への依存度が高い Photo:©CI/Haroldo Castro

最近は、企業の環境・CSR担当者の間では、生物多様性がすっかりメジャーなアジェンダとなってきています。先日、日経BP社主宰の環境経営フォーラム・環境マネジメント研究会で、生物多様性と企業について講演する機会をいただきましたが、そのセミナーにもざっと見たところ100名近くの企業人が参加してました。

環境省生物多様性地球戦略室長の徳丸さんが、生物多様性とは?という一番難しいところをお話しくださった後だったので、より企業に関する部分に特化した具体的な話をさせていただくことができて、私としては、それなりに企業の人たちのお役に立てる講演になったのではないかと自画自賛のセミナーでした(笑)。

しかし、一方で、質疑応答の中で、「企業による生物多様性取り組みはどのような指標で評価・管理すれば良いでしょうか?」という質問が真っ先に出てきて、いろいろ考えさせられました。企業って、数値目標を立てて評価・管理するのが、ほんと好きなんですよねえ。

これは、利潤を追求する営利企業の本質(「だから、なんぼ儲かんねん?!」メンタリティ)でもあるから、ある意味当然のことだし、そうでなければ商売にならないでしょう。でも、「指標による評価・管理」ほど、生物多様性にそぐわない「評価と管理」方法は無いのではないでしょうか?

企業の生物多様性保全(というか自然保護)の取り組みで、一番多いのが植林活動でしょう。これは、「わが社は、どこどこで、○○万本の植林をしました!」というように、活動の成果を明確かつ分かりやすく示せるからというのが、大きな理由のようです。
しかし、植林本数というのは、言い換えれば、「人為的行為の結果、特定地区において変化したバイオマス量」でしかなく、これは生物多様性(の価値)を表す指標には、もちろんなりません。

じゃあということで、「植える種の数を増やしましょう(=種数が増える)」となったり、ひどい場合には「荒地に木を植えたのだから、少なくとも1種は増えて生物多様性に貢献しているではないか(=これも種数が増える)」というような反論もあります。
つまり、今度は、「種の数」を生物多様性(あるいは植林事業の成果)の指標にしているわけです。

そもそも生物多様性とは、「地球上のあらゆる生命の総体であり、私たちの住んでいる地球を現在の形にしている遺伝子、生物種、生態系、そして生態的プロセスの全て(by Russel Mittermeier CI会長)」であり、地球の健康を示すバロメーター、もっと突き詰めれば、私の個人的な意見(注:筆者は、生物学者ではない)としては、「人間の自然に対する価値観」だと思います。そのような「健康度」あるいは「価値観」をひとつの指標で評価し、管理することは、どだい無理なのではないか、というのが私の悩んでいるところなのです。

「木を何本植えました」「種の数がいくつです」 というのは、例えば年齢と股下長だけで「あなたは健康です」と診察するようなものに思えるのです。

今、日本の環境省では、生物多様性総合評価の検討が進められています。これは、国際的に生物多様性を評価しようというGBO(Global Biodiversity Outlook)に貢献する取り組みであり、もちろん科学的にも生物多様性を保全していく上でも、大変重要かつ不可欠な作業です。

ここでは、数十にのぼる指標が検討されています。しかし、これらを全て使っても、たとえば、アマゾンの熱帯雨林とサハラ砂漠のどっちが「生物多様性」が優れているかという「評価」はできない。結局、生物多様性は、文字通り多様。単一の指標で評価し取り組みを管理していくのは、物事を計画し、推し進めていく「進捗管理」としては必要ですが、人々や企業が生物多様性の「価値」を認識し、保全の必要性を理解するために役立つのかといえば、たぶん役立たないでしょう。

結局、冒頭で述べたセミナーでの質問に対して、企業による生物多様性への取り組みを評価する「指標」は、「HOW(何をやって、どうやって数値評価するか)ではなく、WHY(なぜ保全することが重要なのか)を考えているかどうかです」と答えたのですが、会場にもやもやが立ち込めたように思ったのは、私だけだったでしょうか。うーむ、生物多様性は、どう評価するかということひとつとっても難しい。

日比保史

日比保史(ひびやすし)

コンサベーション・インターナショナル・ジャパン代表。(株)野村総合研究所、国連開発計画(UNDP)を経て、2003年現職。環境省企業生物多様性ガイドライン検討委員、同省VER検討委員、同省森林パートナーシップ検討委員、緑の認証機構評議員、モアトゥリーズ評議員、上智大学地球環境研究所非常勤講師などのほか、多数の企業のステークホルダーダイアログに参加。共著に『Hotspots Revisited』、『生態学からみた保護地域と多様性保全』など。神戸出身、葉山在住。